拍手お礼 ゆびきり
「ちゃんと夕飯を済ませて、寝ていてくださいよ、伊織。」
「分かっている。」
「本当ですね。じゃあ、指切り。」
「ふん。女子供でもあるまいに。」
「いいから。ほら。」
京一郎は私の右の手袋を取り上げ、小指に己の小指を絡ませると、互いの指が交差したところに口付けて、行ってきます、と言った。
今日はあれを抱いて寝ることができないから、いやな夢を見そうだ。
一晩中読書でもしながら帰りを待っていたいところだが、指切りをさせられてしまった。
仕方がない。
食事は軽く済ませて、眠くなりそうな詩集でも眺めることにするか。
知っているか、京一郎。
指切りはもともと、遊女が馴染みへ真心を示すために贈った指から来ているらしいぞ。
と言ったら、お前は二度と、指切りなどしなくなるかな。
なぁ、京一郎。
お前は指切りで、誓えるか。
私と・・・・・・――
寝台で詩集を捲っているうちに、転寝していたようで、気付くと明け方になっていた。
そういえば昨夜は悪夢を見なかったようだ。
京一郎はいつ帰ってくるのだろう。
ぼんやりした頭で、腕の中に収まっている温かな身体を抱きしめる。
・・・温かな身体?
顎を引くと、黒い髪の毛が頬を優しく撫でた。
いつの間に寝台へ潜り込んできたのだろう。ガウンも着ずに、私の胸に顔をすり寄せてくる。
「・・・京一郎」
「・・・・・・ん・・・」
冷徹冷酷の柊少尉殿も、閨では形無しだな。
思わず頬が緩む。
右手は私の背を抱き、左手が胸の上をもそもそと動いてむず痒い。
私は京一郎の脇の下に右腕を差し込んで引き寄せ、左の小指を京一郎の左の小指に絡めた。
「なぁ、京一郎。・・・私は誓ってもいいぞ。お前と・・・・・・――」
* * * * *
「今朝起きたら、伊織の機嫌がとても良かったので、ちょっと深めにくちづけをしたら、なんだか面映そうに笑ったんです。あの伊織が。だから私、今日は機嫌が良いんです。面倒事はさっさと持ってきてくださいね?私の気が変わらないうちに。」