澄んで、青く。花薫る。  8


 また会話が始まったのをいいことに、早速質問してみる。まずは、・・・
「館林副会長を、置いてきてよかったんですか?」
「あいつは鬱陶しいから、いいんだ。」
 吐き出すように呟いた千家の表情は、読めなかった。
「先輩を心配してたこと、『そういうんじゃない』って言ってましたけど、・・・」
 表情は、消えたまま。踏み込み過ぎてしまっただろうか。
 少し後悔していると、ふと目を細めて千家がこちらを正視してきた。
「君はそんなに、館林のことが気になる?」
「そんなことないです!」
「なら何故?聞いて、君はどうするつもりなんだろうな。」
 確かに、根掘り葉掘り聞いてばかりでは、不審に思われても仕方がない。まだこの学校に入学して間もない人間が言っていいことだろうかと、戸惑いがないわけではなかったが、正直に伝えてみることにした。
「館林副会長の発言については、ちょっと気になっただけです。だけど、本当に、生徒会が一人の生徒を、千家先輩を他校の生徒に殴ったり蹴ったりさせていたのなら、そんなこと許せません。そんなの、クラス内のいじめよりも悪質だ。」
「ふぅん」
「それに、この間のように乱闘を起こす貴方も、理由がないのなら見過ごせません。もしも理由があったところで、暴力で解決することなんて、絶対ないんだ。」
「へぇ・・・。 つまり、私のことが心配だ、と?」
「え、・・・・・・そりゃあ、怪我したり倒れたり、危なっかしいとは思いますけど」
「成程な。さすが、生活態度・責任感・正義感について好評価の内心点で特待生入学するだけある。」
「え・・・」
 なぜ、そんなことを知っているのか。
「風紀委員は、風紀を乱す恐れのある者、或いは責任感の強い、取り締まる側の資質のある者の情報に敏いものなのだよ。」
 そう言う割には興味無さそうに、千家は続ける。
「風紀委員会に入ってみる気は?」
 唐突な誘いに、戸惑う。
「でも、まだ部活も決めていないし・・・」
「だろうな。斯く言う私も、委員としての活動にはあまり参加しない。」
 これまでの言動から、意外だとは思わなかった。学外で暴力を振るわれ、振るう風紀委員長など、聞いたことがないのだから。
「委員長は、会議室で報告を待つのみ、ですか。お気楽なものですね。」
 自分の居ない委員会活動に誘う千家にほんの少し腹が立って、嫌味を言ってみる。
「棘のある物言いだな。まぁ、そう言われても仕方ないのだろうが、他の委員たちは文句も言わず、それなりに働いてくれている。私との関わりはそこまでないが、勧善懲悪に興味があるなら、一度顔を出してみるといい。」
 なんだか腑に落ちない。勧善懲悪なんて一言も言っていない。それに、千家がいないと聞いて魅力は感じなかった。
「先輩は、部活、どこに入られてるんですか?」
 話題を変えてみる。この捉えどころのない人が放課後何をしているのか、知りたくなった。
「スパイ活動研究会。」
「え・・・ そんな部活、うちの学校にあるんですか・・・」
 知らなかった。学校紹介の冊子は何度も読んだが、部活動一覧に、そんな怪しげな文字が並んでいた記憶はない。
「ああ、今は喧嘩部だったかな。」
「え・・・っ!」
 だから、あの日も殴られたり殴ったりしていた、というのか。唐突に、霧の向こうにある答えが見えた気がして。
「いや、エスエム教団が正式名称だったか」
「・・・先輩」
 やはり、はぐらかされていただけだった。
  この後、千家さん眠くなる。

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